ブレイブヤード

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『ブレイブヤード』の一場面を描いたイラスト。マゴイの森に逃げのがれ、禁断の沼の水に口をつけようとするベルクト。

ブレイブヤード(A Braveyard)はレイン歴32年頃を舞台とした短編小説。北方サーガルの兵士、ベルクトの半生を書く。

概要

本編

シーグ軍の兵士ベルクトは、臆病な若者だった。自らの臆病さを恥じていた彼は、勇気試しに村の周りをうろついていた怪物に挑んだ。彼は足が竦んで怪物相手に一歩も動くことができず、彼を助けようとした村の仲間が殺されてゆくのを見ているだけだった。まさに通りがかった若きレインに命を救われた彼は、彼女に忠誠を誓い、彼女から一杯のイマゴイの盃を受けた。それから彼は、敬愛する彼女の元でシーグの兵士として勇敢に戦うことを志した。

レオノへの侵攻が本格化する頃、道のりで、レインに率いられた彼と彼の仲間たちは多くの猟師を捕らえ、殺害した。彼は、他の若者たちがそうであるように、彼が正しいことをしていると信じて疑わなかった。彼が多くの人を傷つけたように、彼もまた多くの傷を負ったが、彼にはもはや自分がなにものかを恐れているとは感じられなかった。その心は将軍と共にあり、ついに己に打ち勝ったことへの歓びに打ち震え、大きな声で叫んだ。

ある夜。戦火のくすぶる戦場の原っぱに、レイン将軍は座っていた。辺り一面にエルタスの血液-独特の金属に似た臭いがただよっていた。彼女の身体の下には、かつての自分のようなまだあどけない顔の若い兵士が、喉笛をかき切られ、事切れたまま仰向けに横たわっていた。彼女はブフゥッブフゥッと獣のような呼吸を繰り返しており、どうやらその若者の屍を弄んでいるようだった。 やがて彼女は、やはりその足元に転がったままの、斜めに腹を切られている女の兵士の死体に手を伸ばした。臨月が近かったようで、開かれた腹の断面の底で、産声こそあげないものの、灰色の濡れた産毛に包まれた赤子が微かに震えて呼吸をしていた。レインはグッと喉を鳴らし、赤子を掴み上げると、一息でその口の中に飲み込んでしまった。

幸か不幸か、彼はその一部始終を見てしまった。彼はついに敬愛するレイン将軍に恐れをなし、レオノ兵の死体と泥のように眠る仲間達を残し、野営地を飛び出した。彼はいつか草原で怪物に追いかけられた時のように、負っている傷も構わず、走り、走り、とうとう禁忌たるマゴイの森の中に逃げ込んでいた。彼の身体は痛み、ひどく喉が渇いていた。意識の遠ざかる中で、彼は絶対に飲んではいけないマゴイの沼に口をつけた。そうすればきっと、誰かが、かつての友が、よしんばあの時のレインが、助けに来てくれるのではないかと心のどこかで思っているのだった。

レイン歴32年にて

注釈

イマゴイの盃は呪術師の使う、民間伝承的なまじないの意味がある。堅苦しいものではないが意味のないものでもない。


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